文学的雰囲気ー安宅夏夫氏から

 安宅夏夫さんから電話がはいった。ずいぶん前に…鎌倉文学探訪を書くので…とお電話をいただいて以来だ。
 東京に出られて間もなく、東京では宵の口ですよ…と真夜中に電話がかかったこともあった…。
 『愛の狩人ー室生犀星論ー』教養文庫を読んだ頃は、まだ安宅さんとは面識がなかったはずだ。
 随分綺麗な文章をお書きになる方だとの印象だった。


 今日届いたファックス(産経新聞7月9日「蛙の遠めがね・石井英夫」)によると、安宅さんが「人物研究」第19号・今年6月刊で、犀星の小景異情は啄木の新聞連載を元にしているとの論をお書きになったようだ。

 小景異情が発表されたのは大正2年5月、石川啄木の『我等の一団と彼』が本になったのが大正5年。
 その登場人物・高橋彦太郎が「故郷は遠くから想ふべき処」「帰るべき処じゃない。」と語っている。
 ところがこの小説は大正元年8月から9月にかけて読売新聞に連載されたもので、犀星が毎夕新聞を読みに通った徳龍寺(犀星が育った雨宝院の向かい)では読売をはじめ5紙を取っていたという。
 昨年は出自の問題でも論をまとめられているようで、そのことや作品誕生のいきさつを封印することは文学史の捏造になる、との思いで発表なさったそうだ。
 啄木と犀星。興味深いこのコラムのタイトルは「犀星は啄木におんぶした」。


 説話・犀星と、ちょいと文学的世界が流れた。