書誌紹介『越中の民俗宗教』伊藤曙覧氏著


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2006年2月28日刊(届いたのは3月13日)
『日本民俗学』245に紹介した書誌紹介は次の通りである。
紹介したのは、伊藤曙覧氏著『越中の民俗宗教』
A5版・489p。14800円2002年11月刊。岩田書院

「本書には大きく、
①「越中のまつりと民俗芸能」
②「越中のヒジリ」
③「越中の民間伝承」
④「綽如上人と蓮如上人」が収載されている。
①の各論は、「築山習俗」「稚児舞」「獅子舞」「盆踊りチョンガレ節」「願人坊おどり」で、そこでは、曳山の祖型である築山を論じ、
これまで四天王寺稚児舞の伝播であるとされていた稚児舞が、立山修験の法楽を元とすることを論証する。
また、舞の勇壮さで知られる越中獅子は、口能登各地にも多く伝わっており、綿密な調査によって、伝播が一目瞭然となるまでに分析されている。
「盆踊りチョンガレ節」からは、現在、中国の「目連戯」が学会の一部で話題になっているが、
それと関連する「目連尊者」踊りが、福井、石川、岐阜にかけて広がっていることが知られる。
「願人(念)坊」では、踊り系の古い願人坊と、にわか系の獅子舞願人坊があることを、丹念な現地調査を通して証明する。
②においては、役行者行基、泰澄大師、弘法大師高野聖、花山院、俊寛西行親鸞、最明寺入道、善光寺聖、蓮如八百比丘尼(白比丘尼)、道心坊、泡済坊(法才坊)、六十六部、円空、木喰、光導行者を取り上げ、徳本、義賢を深く論じている。
さらに、越中と深く関わった人物を論じたのが、
④の「綽如上人と蓮如上人」である。
綽如は、本願寺第5世で、井波瑞泉寺を創建した。
その折の勧進帳の筆者堯雲は綽如の号とされてきたが、綽如の筆跡に堯雲と記したものがないことから疑問を提起し、
綽如の字体を35歳、40歳、44歳の譲り状で比較、
堯雲の方は25歳と75歳の筆跡を分析し、
両者の違いを明らかにしている。
綽如、堯雲の重要比較文字が49種類。
14世紀後期の字体を詳細に見ることができるだけでもすばらしいが、
学問とはこのようにして、ここまで調べるのだという、姿勢・方法を教えられる。
蓮如論は、
「民俗から見た蓮如上人の足跡」
蓮如忌習俗」
蓮如という僧名について」と興味深い論が並ぶ。
綽如と堯雲が「硬」なら、
蓮如関係は「軟」というべき親しみやすさがある。
先ず問題意識があり、
硬軟取り混ぜての論が展開されるには、よほど歩き、調べ、読みの深さがないとできるものではない。
これからの人にも、方法論だけでも知っていただきたい。
一つ一つの論が指標となっている大著である。