「天神・地藏と異界ー都市金沢の宗教空間」、『おもしろ金沢学』の黒壁

私も『都市民俗へのいざない 情念と宇宙』雄山閣出版・1989(平成元年)刊、
「天神・地蔵と異界ー都市金沢の宗教空間」と題した小論で、
この時の記憶を文にした。
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黒壁は城から見て巽の方角に位置する。
風水の考えでは「黒」は玄武と結びつく北の色である。
北といっても、それは多分に奥まった地をさす記号のようなもので、黒壁は巽の方角ではあるが、犀川浅野川の上流にあたり、太平洋側とちょうど逆の、住む人々の感覚からすれば北と意識される地にあたる。

この「黒」の地は『三州奇談』や『亀の尾の記』によれば、魔魅の住む所だとされ、山に慣れたキコリたちでさえ日暮れともなると近寄らず、また異人に逢って命を失うものが多かったと記される代表的な魔所であった。 

利家が金沢城に入城した際、本丸が魔所だったとして黒壁に移し籠めたともまことしやかに語られていた。
本丸は一揆の拠点尾山御坊のあった所である。
一向宗徒の怨念が黒壁へ移されたのであれば魔所でないはずはないのだが、それは為政者側の都合であって、一向宗、後の真宗門徒からは特に意識されることもなく、後、九万坊大権現・天台宗薬王寺が置かれ、今は商売繁盛の現世利益信仰を集めている。
これも負が正になった例である。
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1984年に倉本四郎氏、小学館の編集者唐沢大和氏をを黒壁に案内してから時が流れ、
黒壁がどこにあるのか
地理上の記憶が失われていった。


確かにあの時案内したはずなのに、
中古のローレルを操るのに精一杯で、
どういうルートで黒壁、倉ヶ嶽へいったのか、記憶にないのだ。


それが、近年になって、2度ほど行く機会を持った。
一つは、『おもしろ金沢学』の取材で、
当時編集担当であった長谷川文秀さんと
写真を撮りに行ってきたのだった。

その時、九万坊大権現は観音の化身だということを知って、
それにも触れておいた。
 

ぎっちり思いでの詰まった空間。
黒壁には、まだ雪があるのだろうか?