上山春平氏の調査と『日本民俗文化大系1 風土と歴史』

かつては、多くの研究者が一度は「あえのこと」を見ようと訪れた。


こういうこともあった。
当時京都国立博物館館長だった上山春平さんが、小学館の『日本民俗文化体系1 風土と文化』の担当部分を執筆するために調査にお出でになり、一緒に執行家で調査・取材していた時、
遅れてきた某新聞記者が、写真を撮るためもう一度お願いしますとさわりの儀礼を再度してもらったことに対して、静かながら憤り、嘆いておられたことが忘れられない。


上山さんは、メモも鉛筆もカメラも持たず、
ズーと座ったままで「あえのこと」を感じておられた。
「神事を二度させるなんて、あってはいけないことです。」ともおっしゃっていた。
ショーじゃないのだ。


ところで、当たり前のことだが、当主が神の下座にいるのに、
カメラマンは見えない神のいるはずの場所の上座に陣取って写真を撮る……
その頃はまだ遠慮がちだったのに…、今は、多くのカメラマンやマスコミが座を滅茶苦茶にしている。


じっと行事を見つめられていた上山さんがお書きになったのは、『日本民俗文化大系1』の364p部分である。
量的には僅かであるが、実際に見ておいであるからこそ書けた部分である。見ないことには「あえのこと」は理解できないと。


ここまで書いてきて、そういえば、一緒に「あえのこと(アエノコト)」を見学した後、能登町の「さんなみ」という民宿の同じ部屋で泊まり、
上山さんが執筆なさった中公新書を数冊頂き、色々お話ししたことも思い出した。


ところが、どうして上山さんを案内することになったのか、そのいきさつが思い出せない。


『風土と文化』は1986年5月に刊行されている。
とするとご一緒させていただいたのは、その前年の暮れ「あえのこと」だった可能性が強い(1984年12月4~6日)。
それにしてもほぼ20年の時が流れた。


頂いた中公新書は4冊だったような気がする。
上山さんの新書は、一見バラバラなテーマーのように見えるが、
天皇制が大きく変わる時を見据えてお書きになったのことだった。