蓮如忌に向けて―絵解き・嫁おどしの段資料

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奈良県吉野郡昔話集』國學院説話研究会編 昭和58年 ガリ版


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左近の桜。この桜は見た通り緑の花。おひな様の向かって右に植わっている桜である。


蓮如忌は雪国の春を強く意識した行事である。

場所によっては、山行き・ピクニックがあり、境内には桜が満開、本堂を桜に見立てた模造品を柱に撒くところもある。

当寺のシダレザクラ若木は、そろそろ葉桜になってきたので25日とズレるが、そのころ左近の桜が咲くところがあるので、いただいてきて飾るつもり。

 

蓮如上人関係の法宝物を、虫干しも兼ねて展示し解説する。

 

絵伝の中心を、今年は嫁おどしの段、鬼面は何をあらわしているのか、を問うてみたい。

鬼面は舞楽で用いていた面あるいは能面で、能面を所蔵する宮は白山、八幡(千葉乗隆解説本)として伝わっている。

先日、何の気なしに『奈良県吉野郡昔話集』(國學院大學説話研究会編、ガリ版、昭和58年刊)を手に取ってみたら、「嫁おどし話」が「肉付面」の題で四話載っていた。

吉野までいくと話の舞台などがかなり違っており、面白いのだ。

しかも、どうしてなのか昔話の分類が「笑い話」なのである。

これは、紹介しなければならない、と思ったので整理し、プリントをお配りすることにしたい。

 同大学が調査刊行した『滋賀県湖北昔話集』には相当数の「肉付き面」話が載っているが、そこまで分析すると論文になってしまうので滋賀県はカット。

 

以下

吉野郡の「肉付面」話
肉付面―1

お婆ちゃん、よその国のしらんで。もうお嫁さんとな、お嫁さんを憎んで憎んでな.嫁さんはその信心家でなかなかな、いうて.お婆ちゃんに参りょうて言うたらな、ぶつけ歩いてな帰らんのですってほいて、お嫁さんがはなや、まあ山ずーっと道参るわな、山ん中通って。そしたら、竹やぶがあるんやて。なんだしゅつな、その竹藪でね、お婆ちゃんがな鬼の面かぶって(不明)竹槍持ってな、お嫁さんを突こうとしてこないに出てきたんやと、ほんけに。ほしたら、そのお嫁さん偉いな。その人のな、ほな手を合わせて「お母さん、なになさるんです」
言うたらな、目り前にな、言うたら阿弥陀如来さんちゅうんですわの。私たちの宗旨はは阿弥陀如来さん、その如来さんが現れてね。その、なにして、ほいで、その説教をせられた。てなこと聞きましたわな、
いうたら、その嫁のをかわいそうだと思おうてな、如来さんが、その婆をかえてな、嫁のかえてな、そいであわしたんやと。それでもな、なかなか直らなんだ。ほいでお婆ちゃん家に帰ってね、ほいで面かぶったまま帰りますやろ。ほいで、家に帰って取ろうて思っても、どないしても取れんのらしいね、肉が村いてね。ほして嫁さんに取ってくれってな。そして、お嫁さんがなえ、なんやてのお母さんどないしても取れないってな、そのなにしてな、肉付面といいましたわな.
天川村 菊谷タケ)     P47
話者情報 大字和田 明治42年2月 出身地中谷 

肉付面-2
 あれは、信州の方と違うかな。牛に引かれて善光寺参りとかゆう時、そんな話あったような気しますな。お寺さんで聞くんやね。説教師が来られた時にね。お嫁さんと。その仲の悪いお嫁さんがね、信心家でお寺に参っとって。ほして、来たら道帰ってくるのを脅かしていたらもう縁は来ない、と思って、隠れて出てったら、お嫁さんが脅かした。その罰に面が顔に付いたんが取れなんだんて。肉付面ゆうてな、その面が引っ付いたんやってゆうことは、お寺さんでオッショさんに聞きましたよ。 (天川村 森脇スエ)大字栃尾 明治27年10月10日 栃尾出身
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肉付面-3
 あの、なんのなあ。越前のあれは聞いたけどなあ。越前の国のお寺、永平寺か。そこで、嫁さんが信心してお寺参りするのに、そのお婆さんがそうゆうの嫌いで。そしてあの、お寺参り参って。
で、嫁さんが寺へ参んの邪魔しようと思って、鬼の面被って脅したってゆうたなあ。そしたら、それが取れないんで、それ肉付いたら剥げて、それで肉付の面てゆうて、永平寺にあるってゆうことは聞いたけど。越前の永平寺ってゆう所(とこ)。
天川村 中谷よしえ) 大字坪内 明治35年1月6日 坪内生  48

肉付面-4
 お婆さんがね、お嫁さんを憎んで憎んでね。そんで、お婆さんがお寺参りばかりするんやけど。
そのお婆さんがお寺に参っても、その自分の根性が直られへんもんで。
ほんで、そのお嫁さんがそのお寺へ行って、なんとかそのお婆さんがもう少し優しゅうなってもらおうと思うて、お婆さん目盗んでね、お寺へ毎夜毎夜、夜更けてからあのお参りしとったら、ある夜その、お婆さんが考えて、」毎晩毎晩あんな時間、男でも拵えて出てくんやかしらん、と思って。まあ、お婆さん考えとった

ところが、どうもお寺行くふうで。ほんで、お寺へ上(のぼ)ってここの谷の所(とこ)で、自分は鬼の面拵(こしら)えて、そでこう被って嫁が帰ってくる時にそれ下ろしてな、怖いことゆうて。そいで、そのしとったらしいな。そしたら、その嫁さんが、あの、「お声を聞いたら、鬼のお声と違う」ゆうて
「家のお母さんのお声によう似てはるお声をしとるけれども、お母さん、私ですよ。許してください」
てゆうてな、そのお嫁さんが頼んでも、そのお母さんがね、
「そんな馬鹿なことあらへん、わしは鬼や。おまえの根性、叩き直してやる」
って、こうして出てきた。
「これから、きっとお母さんに従うか。従うんやったらこの場で許すけど、従わんのやったら
毎晩毎晩ここへ出てきて、おまえを苛(いじ)める」
っちゅうて、こないゆうた。
ほうたら、その嫁さんがお婆さん探して、おれへんので、あれはきっと家(うち)のお母さんに違いない、わしが悪かったと思うて、お料理拵えて、ほで向(むこ)行って、(不明)そいで、なんべんもなんべんも手付いて
「許してくれ、許してくれ」って、
「もうこれ以上、迷惑かけヘんよって勘弁してください」って。
そしたら、お婆さんが大きい声で高笑いしてな。
ほで、
「それは、本当のことばかり」ってゆうたら、その嫁さんがね、
「わしは、了見が違(ちご)うた」
っちゅうて謝まってんけど、お婆さんがなにかゆうたやろな。それで、その面を取ろうと思うたら引っ付いてしもうて取れへんで、その面は、そいで、いつまでもそのお婆さんは鬼の面が付いたまま、おったってね。その鬼の面は、福井県の越前海岸からちょっと入いった所になんとかいうお寺があるわな、そこ行ったら肉付の面やってゆうて置いてあったわ。そこのお婆ちゃんが説朗してくれてな、そこで聞いたんや。
(川上村 中井浜子)   大字 高原 生地同じ 明治36年2月28日
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