『山の民』 江馬修著

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山の民 第二部 が書棚にある。
かつて古本屋さんで途中だけでも購入し、機会があれば前後を購入する買い方をした。
そうでもしないと、大抵、揃えることが出来ないのである。その後、古本屋巡りをやめてしまい、第二部だけがあった。
それが、上下本の綺麗な本に出会った。
長山直治さんの書斎で、譲っていただいたのだが、いつ読めるか分からないので、
一旦別なところに移り、先日届けていただいた。
その経緯そのものも思い出になっていくのであろうが、この本に関して、いくつもの思い違いをしていた。
まず作家名を江馬勉と思い込んでいた。江馬修だ。
そして、手に入れることに焦らなかったのは、山の民=サンカで、この本は、その『サンカ』だと思い込んでいたこともある。
『サンカ』の古本を購入していてはずだと、探してみるが、書棚に『サンカ』がない。
古本屋さんでパラパラと見て、買わなかった、そのパラパラ感が書斎で見た記憶に変わっていたらしい。

サンカは五木寛之氏の『風の王国』で興味深い物語として展開され、『親鸞』に生かされた。
網野善彦先生の非農業民論を受けての「もののけ姫」や、井上鋭夫氏の『山の民・川の民』もあって、山の民といえば、サンカ的な世界ー山を点々として暮らすを非定住民ーを指すのが、私の中での常識になっていた。

うかつといえばうかつだが、江馬修作『山の民』が三角寛作『サンカ(山窩)』だと思っていたのである。

この『山の民』二部は、表紙扉に「山の民 第二部 梅村速水 江馬修 冬牙書房」とある。古い本なので右から読むのか左から読むのか、それも曖昧にしており「梅村速水」を「水速村、梅」 ぐらいにとらえていた。
このタイトルが人物名だと知ったのは、『山の民』上・下が手に入り、開いて見ようという気になったからである。
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冬牙書房版の本文を開くと、すぐに三味線を伴奏に、歌を歌う場面になる。

[本文]
そこに、「白川輪島はどうじゃい?」「輪島か。さア、弾けるかどうか」
(略)
いずれもたのしそうに目をとじ、首とをからだを律動的に打ちふり、大きな荒い両手を一首の楽器のようにぱちり〳〵と叩きながら

  ハァー
小鳥しらかは
   むまやのお寺
   こけらぶきとは
   知らなんだ

彼らの太いのどから出てくる精力的な声が…

とあるではないか!

「輪島」は瞽女さんあたりが広めた歌にあり、民謡の本で何度か見た。
それとは別に、ここで用いられている歌詞の「小鳥しらかは」をどこかで見た記憶がある。
特に「むまやのお寺、こけらぶき…」の部分である。
『山の民』が飛騨高山の農民一揆をテーマにしていることを知ったので、記憶が結びついたのだが、次の写真のお寺。
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小鳥白川 六厩のお寺 こけら葺きとは 知らなんだ

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そこは旧小鳥郷で、オドリ郷といっているが、先祖がこの地である連れ合いの姓は小鳥(ことり)である。
高山には何軒も「小鳥」家があるが、コトリなのかオドリなのかは知らない。

小鳥郷

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小鳥川
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小鳥峠、1000メートル
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小鳥峠を下って…。乗鞍が飛び込んでくる。
2009年3月24日撮影。

『山の民』あらすじ

上〈第一部〉雪崩する国へ〈第二部〉梅村速水(一)
飛騨高山は江戸幕府の直轄地であった。1868年(慶応4年)、明冶新政府の代表者として、最初にこの地に派遺されたのが、国学指竹沢寛三郎であった。彼は入心掌握のため年貢半減、請運上軽減廃止等を布告したが、竹沢の施策は新政府の方針に反して理想的すぎたため、罷免される。
替わって、元水戸浪士梅村速水が新たに県知事として任命される。梅村は企画力に優れた若き俊才で、急進的な改革を押し進め、飛騨高山の世俗的な風習や伝統的な制度と対立していく。さらに新政府の矛盾した政策の忠実な実行者としての役割をも演じていく。
そして村娘おつるを迎えたことで、すべてが裏目に出ることになる。

下〈第2部〉梅村速水(二)〈第3部〉蜂起
梅村速水の政策は根本的には、飛騨高山の文化、歴.史を無視したもので、彼の強引なやり方に、農民たちは極度な恐怖を抱くようになった。しだいに梅村は孤立していく。様々な小さな齟齬の積み重なりが、ついに農民一揆を招来する。
村に怪火が次々と起こるようになる。それが、不穏な人気をいやが上にかき立てた。
農民たちによる打ちこわしが始まった。高山の町は一揆が占領したのである。梅村は追われる身に変わっていった。
明治政府は梅村如事を罷免した。梅村速水は公金横領という罪状により唐丸かごで京都へ送られ、未決囚のまま死因に謎をのこして獄死する。
やがて一揆の首謀者の逮捕が始まり、みな牢死する。「それが大多数の共通した運命であった」(春秋社版、裏表紙掲載)

本郷村善九郎

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これほどの作品を残した方だ。
勝れたアンソロジーである『土とふるさとの文学全集』に作品が収載されているはずだと調べる。
「歴史の視野」分野に載っている。
版元は「家の光協会」。

「家の光」は母の実家が農山村地帯だったので、休みごとに遊びに行って雑誌「家の光」を読みながら、田園ソングを聴いた。「あゝ来年も来ておくれ」(北原謙二)が心に残っているが、「君のひたいに光る汗(橋幸夫)」も、同じような世界にある歌だった。

サンカ

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『幻の標泊民・サンカ』沖浦和光

来月、高山へ行く予定がある。
予定は予定でしかないけど、旅を想像して楽しもう。