『万葉集』朗詠の誘いと真宗との葛藤

昨日の午後4時過ぎ、
かねて高岡市役所から紹介のあった「万葉集朗唱」についての説明においでた。
高岡市役所の人と、
万葉集朗唱イベント関係の方と、
おふたりでお出になっているのだと思いながら部屋にはいると、
4人の方が座っておいでる。
男性1、女性3名。
男性の方は会社社長さん。
女性のおひとりは「万葉集全20巻朗唱の会」にいざなう会副会長の
肩書きをお持ちの方だった。
他のおふたりはどういう方か分からないまま…。
おそらく、富山県では名高く、どのように運営されているのか
たいていの人が知っているのだろう。
私は、
高岡で万葉集全歌を何日にも亘って歌い継ぐイベントがある
ということを知っている程度。


そして、市役所からの電話では、高岡以外の地で家持の歌が歌われた、
その地の人にも呼びかけるとのことだった。
高岡市が行う行事だと思っていた。
ところが、女性の肩書きにあるように、
ボランティアに近い運営組織だというのだ…。


わざわざおいでになった方々にしてみれば、
「観光ボランティアガイド・きらり珠洲」を名乗っているのだから、
中には歌うのが好きで、珠洲の宣伝の為にどこへでも出かける会員のひとりや2人ぐらいはいるだろう、
と思ってこられたらしい。


随分ちぐはぐなところから話がはじまった。
 

輪島市珠洲市、明日七尾市という順に、
詠唱者を探していくのだという。


輪島市はどうでした?
お引き受けいただいた、とおっしゃる。
予定の歌は、「妹にあはず、久しくなりぬ饒石川…」となっている。
この歌の舞台はついこの前まで門前町


引き受けなさった方は、その歌ではなく
珠洲の海人の沖つ御神にい渡りて…」を朗唱なさりたいとのこと…


お気持ちはよくわかる。
その方は「沖つ御神」の宮司さんなのだ。


仮の話だが、仏教朗唱の会というのがあって、
出てみませんか、と誘われたとしよう。
私は、この付近の門徒に下さったという帖外お文3通目をやります、
これなら説明もしやすい、というようなことと同じようなものなのだ…。
(…ちょいとこじつけか)
そういうことなら、万難を排してでも、出かけるなぁ…。

真宗の名でーためらうこと

藤原修氏著『田の神・山の神・年神』の後書き


こういうお誘いの世界は、
真宗を表に出したとき (出さなくても一緒だが微妙に違いがある)、
苦しむところなのだ。


以前、藤原修さんから『田の神・山の神・年神』(岩田書院)という本をいただいた。
6500円もする、貴重な研究書だ。
私も田の神・あえのこと(アエノコト)について書いたことがあるので、
そういう関係で送って下さったのではないかと思っている。
この本のあとがきに、こういう文がある。

ところで、大学卒業後に府立高校社会科教諭の職を得てから今日まで、
継続して民俗学の研究をしていたわけではなかった。
むしろ中断していた時期の方が圧倒的に多いのではないかと思う。
実はこれには理由があった。
現在私は浄土真宗本願寺派の僧籍を持ち、
やがては住職を継承することになるだろう。
そもそも真宗は自らを伝道教団と標榜し
信心の中身をこそ問うことを強調するのであり、
「雑行雑種」など一切の呪術的行為や思考を否定するのである。
従って、この資格や立場に対する自覚が高まるにつれ、
いわゆる真宗の信心と田の神云々を民俗学で論じることの相克に悩むことになった。
この問題は全面的に解決したわけではないが、
新しい知への模索が否定されているわけでは無論なく、
現在は小康を保っている。
人から見ればつまらないことかもしれないが、
わたしにとっては一大事であった。
それこそこれの解決が、
蓮如のいう「一大事の後生」に連なるものとさえおもうことである。


藤原修さんは『新版 民俗調査ハンドブック』(吉川弘文館)にも執筆なさっておいでになり、著名な方である。
この本が出たのが今から10年前…。藤原さん45歳の時だ。


真宗を標榜する時、こういう葛藤が生じるのだ。
この先の自主規制が
ずいぶん真宗のおおらかさを痩せさせたとの、思いはある。 

予選なしの本番

万葉、いいじゃない。歌ってこようぜ。
わざわざ誘われるなんて…。
富山じゃ、NHKのど自慢みたいなものだろう…。
予選なしの本番。珠洲に生まれてよかった。
家持…さまさまだ。
と、ならない、ところの
真宗寺院に生きる者の
葛藤。

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能登国三十三観音真宗

能登国三十三観音は、藤原さんに送っていない。


西勝寺に養子に入った父の実家 (真宗寺院) 境内に札所がある。
4分の1以上の札所で
真宗寺院のお勤め、御法話が行われている。


観音さんに手を引かれて弥陀の浄土へお参させてもらいたいので…
とおっしゃる真宗門徒の声も30年ほど前に聞いた。
などなどの、理由付けが、


能登に活気を…、
能登の歴史を残そうという思いとは別に、
私がこの本を書くために必要だった。


私も、あなたと同じように…と送っても、
どうも慰め合いにしかならないような気がして…、
まだ、お送りしていないのだ。
 

おかげさまで…
もっと悩み、苦しもう。

 
ところで、歌うのは好きなんだけどなぁ…
講演では大抵「梁塵秘抄」を唸るし、
ギターも早く弾き語りをしろ
と泣いているし…。

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